ケンカ別れで別行動。 しょうがない軽くイッパイと飛びこんだバーでばったり。 オマケに空席がそいつの隣りしかないときたもんだ。 「パントマイム・カクテル」 あいつはオレのことをちらっとだけ見て、それからいつもは呑まない甘いカクテルを注文した。 グレナディン・シロップでピンクになった、パントマイム、無言劇。ああそう、オレとはクチききたくないってことね。 「ヴァージン・メアリ」 今さら生娘みたいな態度とってくれるなよ。 「ピンク・ベビー」 そう言うお前は赤子だってか。膝にのせたらちょうどいい位置にあったからふやけるほどしゃぶってただけじゃん。 「プシ・キャット」 あのときはホント仔猫みたいに可愛かったのにさ。鳴き声も。折角呑むぞって決めたのに、バカな遣り取りのおかげで立て続けにノン・アルコールでやんの。ちょっと損した気分。 「シクラメン」 酔いたいなあと、きつめのを頼む。テキーラをベースにコアントロー、オレンジとレモンのジュースをまぜて。 花言葉わかるか、お前。 「はにかみ」、そして「過ぎ去った喜び」。お前が腕の中ではにかんでたことなんか、オレにとっては過ぎ去った喜びなんだ。ああ、あの一時よもう一度。 ちらりと盗み見た横顔、あの表情は多分わかっちゃいない。 なんだかいい気味。勝ったー、て気分。さて、負けず嫌いの次の手はなんだ。 あ。今こっち見た。オレが気づいたら慌てて目そらしたけど。バレバレだっつの。 残念。その顔、肴に呑みたかったな。お前は悪趣味だって怒るけど、オレはお前のそんな顔が好きなんだ。 「ハーヴェイ・ウォールバンガード」 おおっと、酔っ払って壁にぶつかってこいとは。 これたしか、スクリュー・ドライヴァーにガリアーノ・リキュールだっけ。ガリアーノもオレンジだったよな。 「スティンガー」 刺すようなきっつい一言ありがとう。ああでも軽くないやこれ。どうせならお前に酔いたいんだけどな。ブラウン・ヴェルヴェット、カカオと生クリームが主成分。ビロードの舌触り、お前の肌。ちびちびとスティンガーを減らす。一息には呑めない。 はふ。 「ブラック・ヴェルヴェット」 軽いほうにしよう。スタウトとシャンパンを半分ずつ。 「それからキス・オブ・ファイアを彼に」 酔ってるなと自分でも思うから傍目には余程だろう。 まずった。あいつ席立ちやがった。 その間にマスター、同じ名前の曲をジュークボックスに演奏させる。キス・オブ・ファイア、炎の口づけ。 しばらく聞いてた。 真っ赤なカクテル。 と。戻ってくるなりあいつは立ったままで飲み干して、空のグラスをカウンターにたんと置くなり次のオーダー。 「シェリー」 シェリー? シェリーって、シェリーってシェリーって………… 今夜オーケー!? うわお大胆。 「ファンファーレ」 正にそんな気分だった。ちゃんと呑んだよ。 「キス・イン・ザ・ダーク」 ちっ。明るいところでじっくり拝んだのはまだ根に持ってやがる。暗くしてならって条件つき。 「プシ・フット」 こっそり忍び足で向かうから先に行ってて。 ノン・アルコール・カクテルで終わりにする。ウインクをひとつ。
そのあとのことは、ま、ご想像にお任せします。 なんてね。じゃ。
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