【prey on birds】

 

どうやら動物ってものは生きるために生きているらしい。
何てたわいないことを話ながら始めた交わりは、どうしてか補食行為によく似て
いた。
肩先、胸に続く硬い筋肉。女のそれと違う張りつめた褐色の皮膚。
鋭角的なラインに唇を寄せて、軽く歯を立てれば僅かに身動ぐ躰。
強く噛み付けば僅かに破れた表皮から微かな血の味が滲む。
少し震えた肩越しに、責めるような視線が此方側を射抜く。
そうまるで補食行為だろと鼻先で笑ったら、揺れた紺碧の睛が透輝石を映した。
「なら何時か、わいで死んだらおどれが喰う?」
 今すぐでもかまわへんけど。
喘ぎ混じりの睦言にしては、ひどく物騒な科白。
口角から滴る半透明の雫を舐める扇情的な舌先。
僅かに眇められた眸と、口の端から覗く犬歯の切っ先に誘われるようにして口吻
る。
濡れた吐息が零れて、うねるように身を捩る熱い躰。
無意識にかばう腰の銃創にそっと掌を這わせて、意識を繋ぎ止める。

 たべる。

 

そんなモノの意味を考える。
忘れがちな事実だけれど、食べるって事は殺すことだ。
その命を搾取して、自らのエネルギーに変換する。
プラントが無生物体を食用蛋白源として生産することとはワケが違う。
「厭だよ」
耳朶に舌を差し込みながら、嬲るように囁く。
「…な、にが?」
先ほどの一方的な問いかけを忘れたかのように、被り振るとゆるゆると黒髪が散
る。
鋼の胸元に触れたそれ。衝動的に抱き寄せようとして少し戸惑う。
肢体を引き寄せて絡ませる腕を避け、手を伸ばし顔を背ける仕草。
綺麗に反り返った項に沿って滴り落ちる汗に、無性に喉の渇きを覚えた。
まるで何か別のことの代わりのように言葉を紡ぐ。
「君を食べる噺さ…だって、キミを食べるためには……」
嘯く瞬間そうするみたいに睛を伏せて、少し微笑う。

 死。

そう食べるためには殺さなきゃナラナイ。
食べられるために生き物は殺されなきゃ不可ない。
君が死ぬときは僕が殺すときじゃなければダメなんだ。
取り込まれて何も解らなくなる君は其れで良いかも知れない。
けれど君を食べて得られる僕の充足と永遠の孤独との両天秤。
僕が食べるために君を殺す。
そんな日は永遠に来ない。
可哀想とかそんな理由じゃなくて。
「僕は、生きているキミがイイから…
 今のままのキミ、食べてるから良いんだ」
そう言えば鮮やかに瞠られる紺碧の色彩が綺麗だ。

アホクサ…


「あぁ、もぅ阿呆くさ…」
投げ遣りに零された言葉の端にある揺らぎにすらも簡単に煽られて。
突き上げる衝動と、背を伝う汗。
毒舌を紡いでいた唇も、次第にゆるい体液をとろりと零し。
追い上げられる熱にただ意味のない音律を紡ぐだけになってしまった。

 何時かキミを食べる日なんて、来なくていい。

 

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 【prey on birds】 →補食スル


佐々木コメント:「グリーンアイドモンスター」の感想SSを神月薔さんに書いて頂きましたv
キャー!感想小話よ!!絵描き冥利に尽きますよね!!
薔さんありがとうー!!(ハートマークを撒き散らしながら体当たり)
そんでもってこのVさんは優しいなあ…同じテーマなのにこの違いは一体…!
きっとご本人のお人柄が出るんだな…

 

2003/4/24UP