ヴァッシュ「ウルフウッド〜帰りショウラク(近くの定食屋)寄ってこ〜」 ウルフウッド「…あ。所持金300円しかないわー」

学園都市にて 


T大学。理化学F塔、M教授の研究室。金曜日(晴れ)
 鉄筋コンクリートで出来た無愛想なこの建物は七階建てで、学類の研究室が上から下まで詰め込
まれていた。『理化学塔』と呼ばれるからには理化学専攻の学生しか用は無い。芸術専門学類の校
舎と比べてやはり無機質な雰囲気が漂う。あるいは人工的な冷たいイメージ。
 そこに学類とは全く関係のない人間が一人。
カツカツと足音を立てて目指す研究室へと歩いていた。
「なーんか、来るだけで頭良くなる気がするなぁ…」
呑気にそう呟くと物珍しそうに辺りを見回す。扉のプレートを確認して遠慮がちに扉を開くと金糸の頭
をヒョコリ、と覗かせた。昼時、という事もあってか研究室で作業している人数は二人。
視線をウロウロさせると少し困ったように声を上げた。
「ウールフウッドー、いるー?」
名前を呼ばれた黒髪の青年がふと、実験の手を止める。扉から頭だけ覗かせている顔を見ると、苦
笑して立ち上がった。
「どしたんや」
幾分着崩れた感のある白衣の裾を翻して、ウルフウッドはヴァッシュに近付いた。ヴァッシュが軽く手
を上げて挨拶するとウルフウッドを廊下に連れ出し、出し抜けにこう言う。
「ウルフウッド、数学得意だよな」
「は?数学?…専門やないけどな」
それでもまぁ、仮にも理学部やし。それがなんやの? 廊下の壁にもたれながらウルフウッドが怪訝
そうに訊き返す。
「いや、あの、確率統計を教えて貰いたいんだけど。また判らなくなっちゃってさぁ」
腕組みをしたウルフウッドはそれを聞くと、呆れたようにヴァッシュの頭を小突いた。
 この前も同じ問題で、明け方までファミレスで教えてやったばかりだというのに。
嫌、という程お代わり自由のコーヒーを飲み、そのまま大学に戻ってフラフラになりながら研究を続け
たのは記憶に新しい。
「……またか。今度はお前の兄貴に教えて貰えばええやん。呼んで来たろか?」
そう言って研究室内を親指で示す。『兄貴』とは『これ』の双子の兄。ウルフウッドとは同じ教授の研
究室に所属している。ウルフウッドがそう言うとヴァッシュはみるみる顔を曇らせた。
「えー、いいよぉ。だって兄貴に教えて貰ったら『報酬次第だ、しかも高いぞ』とか言うしさぁ」
ヴァッシュの泣き言に、あまりにもあの『兄貴』らしい言葉なのでウルフウッドは思わず苦笑を漏らす。
「ははは、そりゃワイかて言うわ」
「そう言わないで。英語の時助けるからさ、ね? 論文、あるんだろ?」
「あるけどやな……」
『英語』と言われてウルフウッドは少しだけ考えるように唸る。論文は英語が必須だが、お世辞でもあ
まり得意じゃない。英検3級でも受け直すか?と訊かれたら即座に断るだろう。前回の学会だって英
語での質問に「泣いたら許してくれへんかな…」と本気で思ったぐらいだ。出来れば積極的に避けた
い所ではあるが。
「んー、……えーご、なぁ…」
「学食で好きなモノ食べていいからさぁ、プリンでもカレーでも」
駄目押し、とばかりにヴァッシュは言い募る。
「ちゃんとお礼もするってば」
「お礼なぁ……」
まだ口ごもるウルフウッドの肩をヴァッシュはパンッ、と叩くとニコニコ笑って続けた。
「じゃ頼んだよ!後で迎えに来るからね!!」
「ちょっ、あッ、待たんかワイまだ了解してへん、こらーッ」
後でねーッ、とヴァッシュは叫んで走って行ってしまった。ああもう、と誰に言うわけでもなくウルフ
ウッドは黒髪をクシャリと掻き上げる。渋々研究室に戻り双子の兄の所まで行くと、お前の弟何とか
せぇよ、何とか。と小さく文句を言ってやった。
「まぁ、あれはあの通りだからな、しっかり子守してやれ。懐かれて結構な事じゃないか」
顕微鏡を覗きながら、顔も上げずに彼は言う。
…お前がせぇよ。
ウルフウッドは手にしたシャーレを頭にぶつけてやろうか、なんて事を考えた。そうすればもう少し、い
つもと違う表情が見られるかもしれない。
「お前、そんなことしてると折角培養した菌、死ぬぞ」
弟と違って感情が顔に浮かばないこの兄は、声まで無表情に指摘してくる。
「……はいはいっと…」
ウルフウッド溜息をつくと、薬品で汚れた白衣の裾を捲り上げた。










「うーん…」
「まだ判らへんか? それじゃこっちは?………あかんか。ええかもう一度説明するで?」
 夕方、結局強引なヴァッシュに負けて教える事になったウルフウッドは「外で教えるのも面倒やから
うちでしようや」と提案して自分のアパートに誘った。
 感心にもテキストと筆記用具を用意していたヴァッシュをウルフウッドはさっきから根気よく教えてい
る。それにしても、研究室を出てから真っ直ぐ自分のアパートへ戻ったものだから、晩御飯も食べて
ない。空腹で目が回りそうだ。分かり易いエネルギー不足やな…、とウルフウッドはぼんやりと天井
を眺めた。
「あの、これで合ってる……?」
「うん?」
遠慮がちに訊いてくるヴァッシュの声にハッとして、慌てて視線を戻すとレポート用紙に目を通す。
「………あぁ、ええ感じで全部間違えてる…やるなオドレ…」
「えー、どこ?」
ここの最初の変換、で、あと全部。レポート用紙を指で示しながらウルフウッドは溜息を吐いた。
「もう…お前基礎からやり直せや。問題集貸してやるから、な?そんで今日は終わりにしよ?」
先生めちゃ腹減ってんねん。と、ヴァッシュの肩を叩く。んー、と生返事をするヴァッシュに明日や明
日、と言い放ってウルフウッドはさっさと机の上を片付け始めた。
「……メシでも喰い行くついでに飲みにでも行くか」
纏めたテキストをヴァッシュに渡してやりながらウルフウッドは言う。
「あー、それもいいねー」
「でも二人やとあれやし、…お前、兄貴でも呼ぶか? ワイも同じ研究室おるけどまだ一緒に飲んだ
ことないねんなぁ」
「兄貴なぁ……」
ヴァッシュは受け取ったテキストを鞄に仕舞いながら、あまり乗り気じゃない声を出す。
「いいんだけど、イヤだなぁ」
「なんやそれ。……ま、ええけど。そんなら早いとこ用意して行こか」
 床に投げてあった自分の上着を手に取るとウルフウッドは立ち上がろうとする。その腕を慌てて引っ
張るとヴァッシュは続けた。
「あ、あッ、ちょっと待って!……今日のお礼しなきゃ」
「は?…あ、…うわぁッ!?」







ウルフウッドは立ち上がろうと軸にしていた腕を急に取られてバランスを崩した。大きく体が後ろに振
られてゴンッ、としたたか後頭部を打ち付ける。
「い…痛ってーッ!何すんじゃこのハゲ!……って、あッ!ナ、ナニする気ぃかぁーッ!」
折り重なるように被さってくるヴァッシュの意図が判ると、打ち付けた後頭部のせいで涙目になりな
がらウルフウッドは怒鳴りつけた。
「…うん、まぁナニって言われればそうなんだけど。部屋に呼んでくれた時点でいいのかなぁ、と…」
…思ってました。ヴァッシュはそう言うとウルフウッドの顔を見下ろした。

無駄な抵抗


「おーもーうーなーッ!どこをどう押したらそんな図々しい考えが出来んねんオドレはぁッ!」

と、ヴァッシュの下でジタジタと身を捩りながらウルフウッドは言い返す。
「だってさぁ…一人暮らしの部屋に無防備に君、僕入れるしさぁ…。お誘いなのかしら、と思うほど近
寄って教えてくれるしさぁ…」
いや、結構ドキドキしたよ先生? あらがう腕を器用に押さえつつヴァッシュは笑った。

6倍早いですよ。

「なんじゃその笑い!大体お礼ちゃうやんか自分、冷静になって考え………っ」

う…受けクサ!!

 ウルフウッドはスルリ、とシャツの間から忍び込んで来た指に思わず息を飲んだ。クス、と小さく笑う
ヴァッシュが腹立たしい。ううう…と唸って、ウルフウッドはヴァッシュの胸を叩いた。
「ま、まま待て、な、待てや。ワイ身体デカいし、硬いし、抱いても面白ないて!」
「…それさ、この前も言ったよね。十分面白かったけど?」

「え?…そやったっけ? いや……あ、めっちゃ腹減ってるし…!」
「関係あんのそれ……」
ウルフウッドの顔を覗き込みながらヴァッシュは首を捻った。
「関係と言われるとあるようなないような…。や、反応悪いと思うわ、つまらんやろそれも!なッ!」
「………………?」
相変わらず首を捻ったまま黙り込んでしまったヴァッシュに慌ててウルフウッドは付け加えた。
「ワイが培養してる細菌もそやねんて!」
培養地の栄養が足りんかったら死んでまうねん、だからやめてくれッ!
シャツのボタンを外そうとする指先を剥がしたり叩いたりしながらウルフウッドは言う。
「例えが不適当でビタいち判りません、先生」
 混乱極めたウルフウッドの回答にヴァッシュは苦笑しながら口吻けた。顎に手を添えて、最初は柔
らかく。ふ…、と吐息が漏れて薄く唇が開いたら舌を忍ばせて、その感触を楽しんで。ウルフウッドの
身を捩って暴れるのが少しずつ弱まったのを見計らって唇を離した。
 唇の端に伝う唾液を親指で拭うと、ヴァッシュは薬品で荒れ気味のウルフウッドの手を取ってニッコ
リ笑うと続けた。




「先生?明日、続きの講義もよろしくね」
ウルフウッドは言い返す言葉を探してパクパクと口を動かしたが、結局諦めたように、
「……あんまり苛めんといてな」
とだけ呟いた。ホンマ泣くでえーんえーん、や。
「うん。じゃ声出していこうか」
「…アホか。ワイ体育会系ちゃうぞ」
でも。理数系だからこそ。今こうやっていらない苦労をしている事にウルフウッドは気が付いてない。
 明日の家庭教師は絶対ファミレスでやる決心をして、ウルフウッドは空腹に更に追い打ちを掛ける
『ナニ』の講義に身構えた。






………はぁ…めっちゃ腹減ったのに………。

まな板の上の牧師

 

 

久慈様のサイトで9000HITを踏んだら強奪権GET。

何処で踏んだかと言うと久慈様のサイトの日記帳のカウンターでです。

これは…いくらなんでも…盗人猛々しすぎると言うか…

「アタシこのままでいいのかしら」と思わず過去を振り返りそうになりますね!

しかしそんな内省をしつつもさりげに一番お気に入りの作品、

しかも限定モノをかっぱらってくるところが強奪者の強奪者たる所以でしょうか。

それにしても久慈様のラブ米はとてつもなく可愛いと思う今日この頃。

こんなVW描きたいなあ。しかしコメディーやギャグははっきり言ってシリアスより数倍難しいのです。

久慈様の隙を見て「チェーンジ!!」てしようかなギニュー特戦隊みたいに(@ドラゴンボール)