|
彼は僕が気が付いて無いと思っているけれど。そんなに僕はバカじゃない。ただ、気が付いている事を悟られたくないから黙っているだけだ。 髪の毛一筋ほどだけど、狙いを狂わせたのを見た時に、――もう多分、こっちの世界で君が生きていく事は出来ないだろうなと思ったんだ。 それに君が目を逸らしている今はいいんだけど。 浮かんできたアクを丁寧に取り除くという作業を繰り返す。これが、ナカナカ面倒くさくて大変だ。 傍らには、スパイス類の小壜が並んでいる。やるからには本格的にと思ったけど、その壜が全部新品なあたり、付け焼刃が見て取れるって感じかな? 本当は料理は得意では無いのだけれど、本を睨み睨み作っている。 フクジュソウとテールの、具だくさんのスープ。 コトコトと三日ばかり煮込みながら、煮崩れて行くそれを見ていた。 ニンニクとタマネギとニンジン。いい感じに仕上がっている。 セロリは苦手だと言っていたけど、それは溶けてしまってるから、きっと分らないだろう。 別に茹でておいたジャガイモを入れて、一度暖めた。 一度病んでしまった神経は、快復したと言っても、ほんの少しだけ彼の身体に影響を残して。時々、ほんとうに時々彼の感覚を狂わせる。 そんな時、僕は素知らぬフリをして、怪訝な顔をしてみせる。 テールからいい味が出るから、コンソメは少しだけ。香辛料は最初に入れたから、もう馴染んでいる頃だろう。臭み消しにローリエはたくさん。塩とコショウで調味して、一口味をみる。 ちょっと嬉しくなった。 そりゃウルフウッドみたく上手には出来ないけど、僕にしてはカナリの出来だ。 ブーケガルニを取り出して、捨てる。水気をいっぱい含んだそれは、重い音をたててゴミ箱に消えた。 君が強かろうと弱かろうと、本当はそんなに意味は無い。どちらにしろ、足手まといには変わらないのだから。 けれど、プライドの高い君のこと、守るなんて言ったら激怒するだろう。 じゃあ、どうしたら手の届く距離に居てくれる? 君は、気障な科白なんか言えば笑い飛ばすだろうし、大体僕だってそんな事を言うのは苦手だ。 それでずっと考えていたら、昔見たデータの事を思い出したんだ。 ホームのどこかの地方では、スープの一種をプロポーズの言葉に使っていたらしい。 これは結構良いアイデアだと思ったんだけど、けれど僕はミソシルがどんな食べ物か分らないから、そんなものは作れない。 だから代わりにスープを作った。三日もかけて。 卓上コンロで作るのはやっぱり大変で、ガスの缶が部屋のアチコチに転がってる。宿の台所を借りるにも、一日中ってワケにはいかないじゃない? そして、三日目の今朝は何時もよりもずっと早く起きた。だって今日が出発の日なんだから。朝食に間に合わなきゃ意味が無い。 最後にチコリを入れて火を落とす。ほろ苦いその野菜の味は、ウルフウッドの好みだと思う。 君とのキスの味に似てるから。そう思う。 火から下ろしたけど、生食用の野菜だし、余熱で程よくシンナリとするだろう。 さあ、出来上がったスープと、強い火でサッと焼いたトーストと、半熟の卵を二人分持って、ウルフウッドの部屋に行こう。 両手が塞がっているから、足の先でノックをして。少し待てば、ウルフウッドがドアを開けてくれる。そうしたら、まずおはようと言おう。 そして、その口で頼んでみよう。 「僕とずっと一緒に居て欲しい。」 そう言ったら、アイツはどんな顔をするだろう? |
END |
フクジュソウに含まれるアドニトキシンの致死量:体重1kg当たり0.7mg |
確か…発端は「ひととなり」内「プロポーズのセリフ」から。
あんなふざけた解答から素晴らしい小説を和様が!
人生何が幸いするかわかりません。
とりあえず牧師が段々弱っていっているという設定にときめいております。
どうして私は牧師の本当は怖いのに強がっている時とか、調子悪いのに平気なフリをしている所にドキドキするのでしょう。
絶対おかしい。医者に行くべきだろうか。
ああ、トンガリさんはさりげなく「足手まとい」とか言ってて酷いです。そんなところも好きです。
それにしても何ですかトンガリさん、ひょっとしてそれはマジボケでなく確信犯?
牧師毒殺計画?無理心中大作戦?でもトンガリさんなんか普通の量の毒じゃ効かなさそうです。味見してるし。
…そして挿絵は「少女漫画っぽく少女漫画っぽく…」などと呪文のように唱えていたら
ヴァッシュがいつもに増して原作から遠くかけ離れたシロモノになったので
ここにトンガリファンが来てるかどうかは知らないが
一応謝っておきますごめんなさい。