最初の




ウル フウッドへ。




元気ですか。

もう少し早く手紙を出したかったのだけれど、

地球からの船とか、難民のことに手一杯でなかなか筆を取れませんでした。

君は船には乗らずに残ったそうですね。ルイーダから聞きました。

僕はそれを聞いたとき少し残念に思った。

でも

この惑星で不幸だった人類が、どんな星の楽園へ行ったところで、

結局はその内面が不幸である事に変わりはないだろうと思うんだ。

ただぼくは君が、自分自身を

罪あるもの不幸なものと感じることがなくなるようにしたかった。

だから君が残ることで幸福になるならそれでいいのです。

又手紙を書きます。それでは。



ヴァッシュ












次の

ウルフウッドへ。

返事有難う。元気そうで安心しました。
簡素な文章が君らしくて少し可笑しかった。
こうしてるとなんだか君と旅した頃が 思い出されて、
君に遭いたいという気持ちが募るのです。
いいことばかりでは、なかったはずなのにね。

でも

君が目の前に居ないほうが、
君に優しくできます。
君と向き遭うと
痛かったり 憎んだり
自分を嫌いになったり した。

…だからもう、遭わない。

近くに来たら教会に寄ってくださいとのことですが、
儀礼半分、君の優しさ半分で受け取っておきます。

…会わなくても君のしあわせを祈っているから。

又手紙を書きます。それでは。


ヴァッシュ












三通目






君に優しくしたかった。

君の笑った顔が見たかった。

…君に幸せな未来を、あげたかった。



だけど。

僕がそれを望んで努力すればするほど、

君の内側で大事なものが殺されていきました。



君を苦しめていたものは

君が優しかった理由と同じもの

だから

君は

幸福など、望まなかった。













4通目

元気ですか。

君のことを忘れたわけではないけれど
前の手紙を書いてからだいぶ間が開いてしまいました。
こちらの生活もようやく落ち着き、今こうして筆をとっています。
こちらは相変わらずです。人は減ったけれど、残ったプラントでは、物資もギリギリだしね。

略奪や闘争。そして少しの共生。

そんななかで
僕はまだ
死ぬことが悪いのか、苦しむことが悪いのか、
選べないでいる。

愛するから、守りたくて
人は誰かを傷つけるのかな。
たいせつなものがみんなちがうから
だれもが憎んだり、争ったりするんだろうか。

なにかをえらんで、他の全てを否定したら
世界が瓦礫になるから
僕はとくべつをつくったりしない、と思っていた。

でもあの時だけ僕は
君が居る世界を想った。
君が笑う未来が欲しかった。


…また手紙を書きます。どうか元気で。

…どこにも 行き場の無い。



君はいつか、僕の笑顔はとてもへたくそだ、と言ったけれど。

あれは君の優しさだったんだろう?

君の優しさは、いつだって僕を孤独にした。

だけど、ほんとうにひとりぼっちになって、気付いたこともある。


…もうあの人たちを

「レムの残した希望」という言葉で

ひとくくりにしてはいけないみたいだ。


「いつもどおり」に

泣いて 感情を押し流して

心のどこかに固めて忘れられると思ったんだ

記憶が何かの拍子に溶けて 揺り返してくるのだとしても


…君のことだって。


ああ、でもほとんどの力を失った今なら

ぼくはぼくの為だけに

みっともなく泣き叫んで喚き散らして


・・・この気持ちを


終わりにできるのかな



あるいは、天国への。






2013/8/20
…ずっと向き合って、来れませんでした、という話。