ウル
フウッドへ。 元気ですか。 もう少し早く手紙を出したかったのだけれど、 地球からの船とか、難民のことに手一杯でなかなか筆を取れませんでした。 君は船には乗らずに残ったそうですね。ルイーダから聞きました。 僕はそれを聞いたとき少し残念に思った。 でも この惑星で不幸だった人類が、どんな星の楽園へ行ったところで、 結局はその内面が不幸である事に変わりはないだろうと思うんだ。 ただぼくは君が、自分自身を 罪あるもの不幸なものと感じることがなくなるようにしたかった。 だから君が残ることで幸福になるならそれでいいのです。 又手紙を書きます。それでは。 ヴァッシュ |
ウルフウッドへ。 返事有難う。元気そうで安心しました。 簡素な文章が君らしくて少し可笑しかった。 こうしてるとなんだか君と旅した頃が 思い出されて、 君に遭いたいという気持ちが募るのです。 いいことばかりでは、なかったはずなのにね。 でも 君が目の前に居ないほうが、 君に優しくできます。 君と向き遭うと 痛かったり 憎んだり 自分を嫌いになったり した。 …だからもう、遭わない。 近くに来たら教会に寄ってくださいとのことですが、 儀礼半分、君の優しさ半分で受け取っておきます。 …会わなくても君のしあわせを祈っているから。 又手紙を書きます。それでは。 ヴァッシュ |
君に優しくしたかった。 君の笑った顔が見たかった。 …君に幸せな未来を、あげたかった。 だけど。 僕がそれを望んで努力すればするほど、 君の内側で大事なものが殺されていきました。 君を苦しめていたものは 君が優しかった理由と同じもの だから 君は 幸福など、望まなかった。 |
元気ですか。 君のことを忘れたわけではないけれど 前の手紙を書いてからだいぶ間が開いてしまいました。 こちらの生活もようやく落ち着き、今こうして筆をとっています。 こちらは相変わらずです。人は減ったけれど、残ったプラントでは、物資もギリギリだしね。 略奪や闘争。そして少しの共生。 そんななかで 僕はまだ 死ぬことが悪いのか、苦しむことが悪いのか、 選べないでいる。 愛するから、守りたくて 人は誰かを傷つけるのかな。 たいせつなものがみんなちがうから だれもが憎んだり、争ったりするんだろうか。 なにかをえらんで、他の全てを否定したら 世界が瓦礫になるから 僕はとくべつをつくったりしない、と思っていた。 でもあの時だけ僕は 君が居る世界を想った。 君が笑う未来が欲しかった。 …また手紙を書きます。どうか元気で。 |
君はいつか、僕の笑顔はとてもへたくそだ、と言ったけれど。 あれは君の優しさだったんだろう? 君の優しさは、いつだって僕を孤独にした。 だけど、ほんとうにひとりぼっちになって、気付いたこともある。 …もうあの人たちを 「レムの残した希望」という言葉で ひとくくりにしてはいけないみたいだ。 「いつもどおり」に 泣いて 感情を押し流して 心のどこかに固めて忘れられると思ったんだ 記憶が何かの拍子に溶けて 揺り返してくるのだとしても …君のことだって。 ああ、でもほとんどの力を失った今なら ぼくはぼくの為だけに みっともなく泣き叫んで喚き散らして |